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津地方裁判所 昭和27年(行)6号・昭27年(行)8号 判決

原告 石田末良 外一名

被告 三重県知事・三重県農業委員会 外二名

一、主  文

被告三重県知事は別紙目録第三記載の土地について津地方法務局名張出張所昭和二十五年二月十五日受付昭和二十二年十二月二日附自作農創設特別措置法第三条に基く買収に因る農林省のための所有権取得登記及び同出張所昭和二十五年二月二十八日受付第七一四号昭和二十二年十二月二日附同法第十六条に基く売渡に因る被告稲荷生之助のための所有権取得登記の各抹消登記の嘱託をなすべし。

原告石田松石のその余の請求を棄却する。

原告石田末良の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを十分しその五を原告石田松石、その四を原告石田末良、その一を被告三重県知事の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は被告三重県知事、同浮名政雄、同稲荷生之助に対し被告三重県知事が昭和二十二年十二月二日附を以つてなした自作農創設特別措置法第三条に基く原告石田末良に対する別紙目録第二記載の土地の原告石田松石に対する別紙目録第三、第四記載の土地の各買収処分並びに同日附を以つてなした同法第十六条に基く被告稲荷生之助に対する別紙目録第二記載の土地の、被告浮名政雄に対する別紙目録第三、第四記載の土地の各売渡処分はいずれも無効であることを確認する。被告三重県知事は別紙目録第二、第三、第四記載の土地に関する津地方法務局名張出張所昭和二十五年二月十五日受付(但し第四記載の土地は同年二月十八日)昭和二十二年十二月二日附自作農創設特別措置法第三条に基く買収に因る農林省のための所有権取得登記、別紙目録第二記載の土地に関する同出張所昭和二十五年二月二十八日受付第七一四号昭和二十二年十二月二日附同法第十六条に基く売渡に因る被告稲荷生之助のための所有権取得登記及び別紙目録第三、第四記載の土地に関する同出張所昭和二十五年二月二十八日受付第七四一号昭和二十二年十二月二日附同法第十六条に基く売渡に因る被告浮名政雄のための所有権取得登記の各抹消登記の嘱託をなすべし。被告三重県農業委員会が昭和二十七年九月二十七日附を以つて原告石田松石に対してなした裁決はこれを取消す、被告三重県知事に対し同被告が原告石田松石に対し昭和二十七年九月二十九日附買収令書交付によつてなした別紙目録第六記載の土地の買収処分は無効なることを確認する、仮りに右第六記載の土地の買収処分無効確認の請求が容れられないときは被告知事のなした右買収処分はこれを取消す、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求めその請求の原因として昭和二十二年十月十九日訴外滝川村農地委員会(但し当時の名称、以下村農委と略称する)は別紙目録第二、第三、第四記載の各土地(以下(二)(三)(四)の土地と略称する)につき自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第三条に基く買収計画を樹立し被告知事は同年十二月二日附を以つてこれが買収処分をなすと共に同日附を以つて自創法第十六条に基き(二)の土地に関しては被告稲荷に対し(三)(四)の土地については被告浮名に対してこれが売渡処分をなしそれぞれ請求趣旨記載の如き登記がなされた。しかしながら被告知事がなした前示各買収処分は次の如き理由により無効である。

一、右各買収処分は無効なる買収計画に基いてなされたもので無効である。即ち

(1)  (二)の土地についての買収計画は同土地の昭和二十年十一月二十三日当時の耕作者被告稲荷よりの遡及買収の請求により右同日現在の事実に基いてなされたものであるが被告稲荷は右土地の賃貸人訴外宮崎光雄の承諾を得ていない転借人であるから法律上耕作者とは認められないから同被告より右土地の遡及買収の請求があつたとしても右請求は法的に効なくかゝる請求に基いてなされた右遡及買収計画はその要件を欠き無効である。

(2)  (三)の土地に対する買収計画は当初から別紙目録第六記載の土地(以下(六)の土地と略称する)と取違えてなされた錯誤によるものであり右(三)の土地についてはこれを買収すべき根拠の全くないものであつて無効である。

(3)  (四)の土地については自作者たる原告松石よりの買収申出によつて買収計画が樹てられたものであるが右原告の買収申出は左に述べるが如く同原告が農地委員等より強いられてなしたものである。即ち別紙目録第一記載の土地(以下(一)の土地と略称する)と(二)の土地とはもと一筆の土地で訴外宮崎光雄が所有し被告浮名に賃貸してあつたところ原告石田末良の実兄訴外石田元義は右(一)(二)の土地を自作農創設維持事業による自作田として買受けたき旨申込んだ結果昭和二十一年四月四日宮崎は該土地の賃借人被告浮名の親権者やすの承諾を得て石田元義に対し右(一)(二)の土地を売渡すことを約し同年五月右(一)(二)の土地を石田元義に引渡す必要に迫られ賃借人被告浮名の親権者やすと交渉して被告浮名は一年後なる昭和二十二年六月には無条件にて右(一)(二)の土地の耕作権を買主石田元義に譲渡すること、その代償として宮崎は被告浮名に対しその所有の別紙目録第五記載の土地に小作権を設定することを約定した。しかるところ右買主石田元義の実弟である原告末良は昭和二十一年五月三十日復員帰村し自作農地を入手する必要に迫られていたので右元義より(一)(二)の土地に対する買主たる地位を自作農創設維持事業者たる滝川村村長及び売主宮崎の承諾を得て譲受け昭和二十一年七月十九日附で右(一)(二)の土地につきこれが所有権移転登記を経由すると同時に自作農維持事業による自作田としての登記をなし右のことを被告浮名に通知すると共に昭和二十二年六月が到来せば引渡されたき旨申入れその了解を得たが引渡期日が近ずくに従い同被告は右履行を免れんと策し期日到来するもこれが履行をなさず昭和二十二年六月に至り同被告及び(二)の土地の無断転借人たる被告稲荷は右(一)(二)の土地の遡及買収の請求をなしたため昭和二十二年七月二十一日当時の村農地委員であつた訴外福井利郎、同池田喜吉及び滝川村村長堀内新太郎は原告両名方に来たり同所え被告浮名の姉婿にして同被告の代理人たる川口新太郎と被告稲荷を呼び寄せた上前叙の如く(一)(二)の土地は原告末良の所有地であるのみならず自作農創設維持事業のための自作田でありその登記も経ている事実や被告浮名は原告末良に右土地を明渡すべき義務あること、被告稲荷は右(二)の土地の正当なる小作人ではないことを無視し原告松石に対し原告末良が右田を買受けたのは非常な闇価格の取引であるとか土地台帳と異なるから自作田の登記は虚偽であるとか申向け更に前叙の如き理由により被告稲荷被告浮名よりの右(一)(二)の土地の遡及買収の請求は無効若くは著しく信義に反するものであり又右土地は自作農創設維持のため自作田であるからこの見地からも右被告等の請求は無効であるに拘わらず右被告両名から(一)(二)の土地の遡及買収の請求があつたから原告末良は右土地の所有権耕作権を喪うに至るべき旨申向けて原告松石を畏怖させ(一)の土地は原告松石が(二)の土地は被告稲荷が(四)(六)の土地は被告浮名が夫々所有し且つ耕作することに原告松石、被告浮名、被告稲荷の三者間に協議ができた旨記載した同日附の滝川村農地委員会長宛の申請書に署名捺印を強いたので原告松石において已むなく右書面に署名捺印したものである。しかしながら(四)(六)の土地はいずれも原告松石の所有で自家菜園として自作してきたものでこれを喪うことは到底堪えられないので、その後昭和二十二年十一月十五日村農地委員会長に対する異議申立において前示昭和二十二年七月二十一日附申請書に基く買収申出は強迫に基く意思表示として取消したのである。右の如く右申請書による原告松石の買収申請は強迫に基いてなされたもので後に取消しているから右申出の有効なることを前提とした(四)の土地に対する買収計画は無効である。

叙上の如く本件(二)(三)(四)の土地に対する買収計画は無効であり、従つてこれに基いてなされた右各土地に対する被告知事の買収処分も無効であるといわなければならない。更に

二、(1) 右被告知事の買収処分は買収令書交付によらずしてなされたもので無効である。即ち自創法による農地買収は買収令書を当該農地の所有者に交付してなされねばならないに拘らず、右(二)(三)(四)の土地の買収につき原告等は被告知事より現在に至るまで買収令書を受取つておらず被告知事のなした右各土地に対する買収処分は買収令書の交付なくしてなされたものであるから無効である。

(2) (二)の土地の買収処分は原告松石を所有者としてなされたものであるが、買収当時の所有者は前叙の如く原告末良であるから所有者の指定を誤つたもので(二)の土地の買収処分は此の点においても無効の瑕疵あるものである。

叙上の理由によりいずれにするも被告知事の(二)(三)(四)の土地に対する買収処分は無効であり従つてこれを前提としてなされた被告浮名、被告稲荷に対する右土地の売渡処分も亦無効であり右各処分に基く各登記はいずれも抹消せらるべきものである。

なお、右(二)(三)(四)の土地の買収に対し原告松石は昭和二十二年十一月十五日村農委に対しその後昭和二十五年六月に至る間数回にわたつて村農委及び被告県農委に対し異議及び訴願書を提出したがいずれも取上げられなかつた。

次に(六)の土地は原告松石所有であつたところ村農委は昭和二十七年八月二十一日頃右土地につき買収計画を樹てたため同原告は同月三十日これに対し異議を申立て、同村農委より同年九月三日附で右申立を却下されたので同月二十三日被告県農委に訴願したが被告県農業委員会(以下被告県農委と略称する)は同月二十九日附を以つて訴願棄却の裁決をなし被告知事は同月二十九日附を以つて右土地に対する買収令書を原告松石に交付して該土地の買収処分をなした。しかして右買収処分は右土地につき前叙の昭和二十二年七月二十一日附の原告松石、被告浮名被告稲荷間の契約に基く申請書により所有者原告松石より買収申出のあつたものとしてなされたものであるが前叙の如く原告松石の右申出は農地委員等が同原告を強迫してなしたものであるから、斯かる申出に基いてなされた買収計画は違法であり、右買収計画を正当として認めた被告県農委の訴願棄却の裁決も違法であり取消さるべきものである。しかして被告知事の右土地に対する買収処分は前示違法なる買収計画に基きなされたものであるのみならずその買収令書には単に「知事」との不動文字と三重県知事の印章のみ押捺されてあるのみで発行者の表示を欠如しているばかりでなく自創法第何条による買収なりやの記入なくその形式的要件を欠き有効なる買収令書とはいえず斯かる買収令書の交付による右買収は無効であるといわなければならない。仮りに然らずとするも取消さるべきものである。よつて請求趣旨の如き判決を求めるため本訴に及ぶと陳述した(立証省略)。

被告等訴訟代理人は昭和二十七年(行)第六号事件((二)(三)(四)の土地に関する請求)につき訴を却下する訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め、その理由として本訴は法定の期間内の適法な異議訴願裁決を経ずしてなされたものであり、又訴願の裁決を経ないことに格別の正当事由もないのみならず本件処分のあつた日より四年以上経た後に提起されたもので出訴期間を徒過しているから不適法であると述べ、同事件及び同年(行)第八号事件の本案につき原告等の請求を棄却する、訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め答弁として原告等主張事実中村農委が本件(二)(三)(四)の土地につき原告主張の如き理由で昭和二十二年十月十九日買収並に売渡計画を樹立したこと、被告知事が同年十二月二日附で右土地を買収し同日附で(二)の土地を被告稲荷に(三)(四)の土地を被告浮名に売渡す処分をなし(二)(三)(四)の土地につき右買収及び売渡処分に基く原告主張の如き登記がなされたこと(二)の土地の買収令書の宛名が原告松石名義となつていること、右買収につき原告松石が異議訴願をしたこと(但し右はいずれも法定期間後になされたものである。村農委は右異議申立を却下しその旨原告松石に通告したが同原告は法定期間内に訴願せず期間経過後被告県農委に訴願したところその後右訴願を取下げた)、(六)の土地につき原告主張の日にその主張の如き理由で買収計画が樹てられたこと、これに対し原告松石は村農委に異議申立をなしたが却下されて更に被告県農委に訴願を提起したこと、被告県農委において原告主張の日に訴願棄却の裁決をなし同日被告知事が右土地の買収処分をしたこと、(六)の土地の買収令書の形式が原告等主張の如くなること(三)の土地に対する買収計画及び買収処分は原告主張の如く(六)の土地と取違えてなされたものなること、本件(一)(二)の土地はもと宮崎光雄の所有で昭和十九年迄被告浮名の父万之助が賃借耕作してきたが同年六月その内右(二)の土地を被告稲荷に転貸したこと(但被告稲荷が無断転借人なることは否認する)被告浮名は父死亡によつて相続し、右(一)の土地は同被告が(二)の土地は被告稲荷が引続き耕作していること、原告末良と石田元義との身分関係が原告主張の如くなること、右(一)(二)の土地につき宮崎光雄より原告末良に対する所有権移転登記及び右土地が自作農創設維持事業による自作地なることの登記がなされていること、昭和二十二年七月二十一日原告松石、被告稲荷、被告浮名三者間に原告主張の如き書面が作成せられたこと、原告松石が右土地の買収計画に対する異議申立書において右書面による契約を取消したことは認めるが、その他の事実は否認する。(なお原告等が強迫の言動なりとして主張する闇価格及び土地台帳に副わない自作田としての登記なる攻撃方法の提出はそもそも訴訟の完結を遅延せしめるものであるから却下すべきである)本件各処分は原告主張の如き違法の瑕疵あるものでなくいずれも正当である。即ち本件(二)の土地は昭和二十年十一月二十三日現在被告稲荷が正当権原に基いて小作していた不在地主の小作地であり、同被告より遡及買収の申請があつたため村農委においてこれにつき買収計画を樹てたもので違法の点はない。原告は被告稲荷は無断転借人であると主張するが同被告は昭和二十年六月当時右土地の賃借人被告浮名の父より転借し賃貸人宮崎光雄は学生の身で父なく母明栄が家政をとつていたので昭和二十一年一月右光雄の代理人明栄よりその承諾を得て小作料も納付しており同被告は正当なる小作人である。次に(四)の土地の買収計画は前叙の昭和二十年七月二十一日の原告松石と被告浮名、被告稲荷との話合による所有者原告松石よりの正当の買収申出に基いてなされたものであるから何ら違法の点はない。しかして右申出は後叙の如く同原告の自由なる意思に基くもので原告主張の如く強迫によるものではない。即ち昭和二十二年六月被告浮名は原告等より(一)の土地の返還を迫られて同被告の親権者やすがこの事を村農委に訴え出たので同村農委において協議した結果地元選出の農地委員池田喜吉及び同福井利郎において解決することになり同人等は原告松石宅に同原告、被告稲荷、被告浮名の姉婿川口新太郎を集めて斡旋案を提示したが落着するに至らなかつたところその後原告松石は(一)の土地の耕作に着手するに至りこれを知つた同村農地委員等が審議の結果被告浮名が右土地を引続き耕作するを至当とするとの結論を得たが、当時の滝川村村長堀内は話を円満に解決するため昭和二十二年七月二十一日前示福井、池田の両委員と共に原告松石方に赴き同所で同原告、被告稲荷及び川口新太郎を集め種々斡旋勧告した結果右原告及び被告両名間に原告主張の申請書記載の如き契約が成立し此の旨を村農委に通告申請したものである。しかして右契約の際斡旋に当つた農地委員等が原告松石に対し(一)(二)の土地はいずれ買収せらるべき旨を述べたことは争うが仮りにそうだとしても元来昭和二十年十一月二十三日現在に遡及するときは(一)(二)の土地は不在地主宮崎光雄(当時名賀郡錦生村居住)所有にかかり被告浮名被告稲荷が夫々小作していたのであつて当然遡及買収を申請し得るのであり、現に当時既に買収の申請をしていたものであるから早晩買収を免れ得ないことは予測し得るところであつたので同委員等の言動には何ら不当違法の点なきのみならず原告等は右契約によつて元来買収を免れ得ない九畝歩の(一)の土地を保有耕作することを得その代償として僅かに三畝歩に充たない(四)(六)の土地を被告浮名に与えたにすぎず右契約は原告等に有利であつて前示委員等の強迫によるものとはいえない。尤も原告松石は昭和二十二年十一月十五日になした異議申立書において右契約を取消しているが意思表示の相手方を誤つているばかりでなく右契約は強迫によるものでないから取消の効力はない。仮りに右取消が買収申出の取消であるとしても右申出により買収手続が進行した後においてはもはやこれを取消し得ない。なお自作農創設維持事業による自作地たるには実際に自作地として創設又は維持を完了されたものなることを要するところ(一)の土地については右自作田の登記当時原告末良の自作地となつていなかつたし(二)の土地は未だ曾つて原告末良の自作地となつたことがないのであるから右事実にそわぬ(一)(二)の土地についての自作田なる登記は何等効力を生じない。仮りに適法に自作地登記を受けた農地とするも自創法による買収を妨げるものではない。右の如く本件(二)(四)の土地に対する買収計画には何ら違法の点はない。しかして右(二)(三)(四)の土地に対する買収処分は昭和二十三年九月二十五日頃村農委の使者が右各土地に対する買収令書を原告方に持参交付してなしたものであつて右買収処分の手続に原告主張の如き瑕疵はない。又右土地のうち(二)の土地は原告末良の所有名義であるのに右買収令書の宛名(所有者)は原告松石となつているが右(二)の土地の部分の摘要欄には所有者原告末良と記載されているばかりでなく元来原告末良は原告松石の養子であつて原告松石は原告末良名義で右(二)の土地を買受けたもので真実の所有者は原告松石であるから右買収処分には原告主張の如き所有者の指定を誤つた違法はない。叙上の如く本件(二)(四)の土地に対する買収処分には何ら違法の瑕疵なく正当である。仮りに原告主張事実のとおりであるとするも買収令書未交付の点は暫くおき、その余の主張の如き事由は本件買収処分を無効たらしめるべき瑕疵ではない。よつて右処分の無効及びこれを前提とする原告の請求は理由がない。なお本件(三)の土地に対する買収及び売渡処分は前叙の如く錯誤によつたものであつたため後日において取消した。

次ぎに本件(六)の土地は前叙の昭和二十二年七月二十一日の話合による所有者原告松石よりの正式の買収申出によつて買収したものであるが、当初は誤つて(三)の土地につき買収計画を樹立し次いでこれが買収処分をしたが、その後その誤を発見して改めて本件(六)の土地につき買収手続をなしたものであり右原告の買収申出が同原告の自由なる意思に基いたものなること前叙の如くであるから右申出に基いてなされた買収計画には何ら違法の点はない。これと同趣旨に出でた被告県農委の裁決も亦正当であり右買収計画に基いてなされた被告知事の買収処分には違法の点はない又右土地に対する買収令書には「三重県買収令書」なる標題の記載あり「農地用三重県知事」の印章あり発行者が三重県知事なることは明白であり、又自創法により買収する旨の記載があるから右令書の交付による買収処分は無効でないことはもちろん取消すべき程度の瑕疵ではない。従つて右訴願裁決の取消及び買収処分の無効確認或はその取消を求める原告の請求も亦理由がないと述べた(立証省略)。

三、理  由

先ず被告三重県知事同稲荷同浮名の昭和二十七年(行)第六号事件に対する本案前の抗弁につき按ずるに農地の買収及び売渡処分を無効なりとしてこれが無効確認を求める本件訴には行政事件特例法第二条、第五条の適用がないから本訴が被告主張の如く法定の期間内の適法な異議訴願の裁決を経ず且つ法定の出訴期間経過後に提起されたものとしてもこれがため本訴を不適法なものということはできず同被告等の主張は理由なく採用し難い。

よつて先ず(二)(三)(四)の土地に対する買収処分無効確認等の原告の請求につき按ずるに右各土地につき昭和二十二年十月十九日買収並に売渡計画が樹てられ、被告知事において同年十二月二日附でこれが買収処分をなし同日附で(二)の土地を被告稲荷に(三)(四)の土地を被告浮名に売渡す処分をなし、右各土地につき右買収及び売渡処分に基く原告主張の如き登記がなされたことは当事者間に争がない。しかして被告知事は右のうち(三)の土地に対する買収処分並に売渡処分を後に同被告において取消したと抗争するに対し原告松石はこれを明らかに争はないから同原告においてこれを自白したものと看做すべきものとす。然らば右(三)の土地に対する各処分の無効確認を求める原告の請求はもはやその利益なきに至つたものというべく失当たるを免れない。しかしながら被告知事が右各処分を取消した以上これに基いてなされた登記を被告知事において抹消すべき義務あること明らかであるから同被告に対しこれが登記の抹消を求める原告の請求は理由がある。

次に順次(二)、(四)の土地に対する被告知事の買収処分が無効なるや否やにつき判断する。

(二)の土地に対する買収計画は右土地の昭和二十年十一月二十三日現在の耕作者被告稲荷よりのいわゆる遡及買収の請求によつて右同日現在における事実に基いて樹立されたものであること、被告稲荷が同日現在右土地を耕作していたことは当事者間に争ないところ、仮りに原告主張の如く右遡及買収請求者たる被告稲荷の当時の右土地の耕作が賃貸人の承諾のない無断転借によるものとしても斯かる事由は同被告の請求に基いてなされた右買収計画の無効を来たす程の重大にして明白な瑕疵とはいい難いから転貸の承諾の有無に付て判断する迄もなく右事由を以つて右買収計画を無効なりとする原告の主張は理由なきものといわなければならない。

次に(四)の土地に対する買収計画は右土地の所有者原告松石よりの買収の申出に基きなされたことは当事者間に争なきところ同原告は右買収の申出は農地委員等より強迫せられたもので後に右申出を取消したものであるからこれに基いてなされた買収計画は無効であると主張するので按ずるに(この点に関する時機に遅れた攻撃方法であるとの被告等の主張は理由がないから採用しない)仮りに右原告の買収申出がその主張の如く強迫に基くものであるとしても格段の事由のない限り斯かる申出に基いて定められた買収計画が当然に無効であるとは認め難い。蓋し右土地に対する買収計画は自創法第三条第五項第六号(但当時施行中のもの)に基いてなされたものであるから右買収には所有者よりの買収申出あることを要するが、その申出が強迫に因つてなされたものであることが買収計画樹立に当つて村農委に明らかである場合は格別然らずして苟も所有者より申出がありそれに基いて買収計画が定められた以上右申出が強迫に因るものであり、後にそれが取消されたとしても右買収計画は行政行為の特質からして一応有効なるものと解すべきであるからである。しかのみならず成立に争のない甲第十二、第十三、第十五号証に証人吉田茂平、同池田喜吉、同亀井政次郎、同浮名やす、同大屋戸金七(一回)の各証言及び被告稲荷本人訊問の結果(一回)を綜合すると右原告の買収の申出は次の如き経緯によつてなされたこと即ち、昭和二十二年五月頃(一)(二)の土地の耕作者被告稲荷、被告浮名は村農委に右土地について原告等との紛争の解決方を依頼すると共に右土地の遡及買収方を申請したので村農委において実情を調査すると共に地元選出の池田喜吉、福井利郎が原告松石、被告浮名の代理人川口新太郎、被告稲荷より事情を聴取してその円満なる解決に努めたが原告松石は右被告両名に対し右土地の明渡を要求し、被告両名はその耕作権を主張して双方相譲らないため村農委の本会議において右被告両名の請求に基き右土地の買収の当否が審議せられた結果右被告等の請求によつて昭和二十年十一月二十三日現在の事実に基いて右土地は不在地主の土地として買収すべき結論を得たところ、その際傍聴していた滝川村々長、堀内新太郎より原告松石も出席していないしこの問題は自分と地元の委員で解決したいから正式の決定は待つてもらいたいとの申出があり農地委員等はこれを了承し右村長、地元選出の前示福井、池田両委員においてこれが解決に当ることになりその後同人等は原告松石に対し委員会の模様では右土地は買収せられることになる旨を告げ双方円満に妥結すべき旨を勧めた結果同原告も遂に折れ昭和二十二年七月二十一日原告松石宅において前示委員等立会のもとに同原告、被告稲荷、被告浮名間に(一)の土地は原告松石が(二)の土地は被告稲荷が(四)(六)の土地は被告浮名がそれぞれ所有且つ耕作することに話がまとまり、右趣旨に副う如く所要の買収手続をとるべきことを村農委に申請したものであること、しかして右斡旋に当つた池田委員は原告方の親戚であり其の他の者も村農委の意向では右(一)(二)の土地は当然買収せられるに至るべきを慮り原告等のためを思つてその解決斡旋に乗出したものであり、又右契約の内容も原告等にさして不利なものでなく原告等が買収せられるに至るべき九畝歩の(一)の土地を保有することを得その代償としては一畝二十一歩の(四)の土地と二十三坪七合七勺の(六)の土地を失つたにすぎないことが認められ尚前示委員等が原告松石に対し右土地は早晩買収を免れないと告げたことは従来認定の経緯に照し不当でく原告松石は農地委員等より勧められ村農委の意向を考慮し、その利害得失なを勘案した結果前示の如き契約を結びそれに基き本件(四)、(六)の土地買収の申出をなしたものと認むべきである。右認定に反する原告松石本人訊問の結果は措信せず他に前示委員等が原告松石に強迫的言辞を弄して同原告をして右申出をなさしめたことを窺われるような事実は認むべき証拠がない。然らば自作農創設維持事業による自作地と雖もこれが買収を妨げるものでないから所有者原告松石よりの買収申出によつて定められた右(四)の土地に対する買収計画は何ら違法の点なく右原告の主張は理由がない。

次に右(二)(四)の土地の買収処分は買収令書の交付なくしてなされたものであるとの主張につき審按するに成立に争いのない甲第十七号証に証人柏本すて、同大屋戸金七(一、二、三回)の各証言を綜合すると昭和二十三年九月下旬頃村農委書記大屋戸金七が滝川村役場小使柏本すてをして原告方に持参せしめて交付したことが認められる、右認定に反する証人稲森芳蔵の証言、原告松石本人訊問の結果は措信しない。従つて買収令書未交付を理由とする右原告の主張は理由がない。

次に(二)の土地の買収処分は所有者でない原告松石に対してなされたもので無効であるとの原告末良の主張につき按ずるに右買収処分が原告松石宛になされたものであること及び右買収当時の所有名義人は原告末良なることは当事者間に争なく証人宮崎明栄の証言により成立の認められる甲第八号証、証人宮崎明栄、同石田元義の各証言及び原告松石本人訊問の結果を綜合すると右土地はもと宮崎光雄の所有であつたところ昭和二十一年四月頃訴外石田元義が買受ける契約をなしついで同年五月頃復員帰村した右元義の実弟である原告末良が元義より右買主の地位を譲り受けて同年七月十九日同原告にこれが所有権移転登記を経由したもので(但右登記の点は当事者間に争がない)右土地が右買収処分当時同原告の所有に属していたことが認められるが又一方成立に争のない甲第十六号証の一、二に証人大屋戸金七(一回)同池田喜吉の各証言及び原告松石本人訊問の結果を綜合すると原告末良は原告松石の養子でその世帯員であり、原告松石が世帯主としてこれが家政に当り、右土地の買収に関しても専ら同原告がこれが折衝に当つてきたこと、村農委において右土地の真実の所有者を原告松石と認めて同原告を所有者として買収計画が定められて且つこれに対し原告松石より適法の期間内に異議申立がなかつたことが認められるから斯かる事情の下においては右土地に対する買収処分の名宛の誤りは買収処分をして当然無効ならしめるものでないと解すべく、右原告の主張は理由がない。

叙上の如く本件(二)(四)の買収処分には原告主張の如き無効の瑕疵はないからこれが無効確認及びその無効なることを前提とする原告の請求はいずれも理由がない。

次に本件(六)の土地に関する請求につき按ずるに村農委が右土地につき昭和二十七年八月二十一日頃買収計画を樹立したこと、原告松石が右につき同月三十日異議を申立て同村農委より同年九月三日附で右申立を却下されたので同月二十三日被告県農委に訴願をしたこと、被告県農委が同月二十九日附で右訴願棄却の決定をなしたこと、被告知事が同日附で右土地に対する買収令書を原告松石に交付してこれが買収処分をなしたことは当事者間に争がない。

そこで右訴願棄却の裁決及び買収処分に原告主張の如き違法の瑕疵あるか否かについて判断する。

右買収計画が所有者原告松石よりの前叙の昭和二十二年七月二十一日の同原告、被告稲荷、被告浮名間の契約による買収申出に基き定められたものであることは当事者間に争ないところ原告は右買収申出は農地委員等より強迫せられてなしたものであると主張するが、右申出は同原告が強迫によつてでなくその自由なる意思に基きなされたものであること前段認定の如くであるから、原告の右主張は理由なく所有者原告松石よりの正当な買収申出に基いてなされた右買収計画には何らの違法はなく、これが正当なることを認めて原告松石の訴願を棄却した被告県農委の裁決及び右買収計画に基いてなされた被告知事の買収処分には違法の点はない。

次に原告松石は右土地に対する買収令書に発行者たる三重県知事及び買収の根拠法条の記載がないから斯かる買収令書による買収処分は無効であると主張するにつき按ずるに右買収令書に原告松石主張の如き瑕疵あることは被告知事の認めるところであるが、右買収令書には知事なる文字と三重県知事の印章の押捺あることは当事者間に争なく更に成立に争ない甲第三十号証の二によれば同令書には三重県買収令書の標題が附されていることが認められるから右令書が被告三重県知事によつて正当に発行されたことは明らかであり又買収の根拠法条は買収令書の記載要件でないから右の如き瑕疵あるも右買収令書は有効なるものと解すべく同令書交付による右買収処分は無効でないことはもちろん取消すべき瑕疵もなく適法である。

然らば右訴願裁決及び買収処分の無効確認若くはこれが取消を求める原告松石の請求も亦その理由なきものといわなければならない。

よつて原告松石の本訴請求中(三)の土地に対する買収及び売渡処分に基く各登記の抹消を求むる部分は正当として認容すべきも同原告の爾余の請求並に原告末良の請求は全部失当としていずれも棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西川力一 小久保義憲 家村繁治)

(目録省略)

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